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中村文則 何もかも憂鬱な夜に

とんでも無い良書を読みました。

 

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

 

なぜ控訴しない?―施設で育った過去を持つ「僕」は、刑務官として、夫婦を刺殺した二十歳の未決死刑囚・山井を担当していた。一週間後に迫った控訴期限を前にしても、山井はまだ語られていない何かを隠している―。芥川賞作家が、重大犯罪と死刑制度に真摯に向き合い、生きる者と死にゆく者をつなぐ最後の希望を描き出す。

 

 2月に海猫沢めろんさんと西加奈子さんのトークセッションでおすすめされてて、やっと読めました。

結論から言うと、すごく面白かった。おもしろいっていうか…興味深い内容で、気になってたことが腑に落ちた感じ。

 

刑務官が主人公ということで、きっと死刑制度が主なテーマだと思ってた。

でも違った。もっと普遍的な「生」と「死」、それから「性」のとりとめのなさとか命の尊さなんていう文字にするとバカバカしさすら漂うテーマを真摯に、リアルに、人間の奥底までもぐりこんで掬い出してくれるような本。

 

主人公にも、友人で自殺を選んだ真下にも共感できた。そして死刑囚の山井にも。

そして恩師の言葉には主人公と同じくして救われたような気分になりました。

 

死刑のあやふやさとか、色々考えてなかったことを目前に掲げられたし、かと思えば因縁の受刑囚佐久間の言葉

「あなたを見た時、惹かれましたよ。私はあなたのようなタイプの人間が、大好きです。若く、ゆらゆらと、揺れている。自分に不満を持ち、自分を恐れ、人生に飽き、自分がいつまでこうしていられるかを、不安に思っている……根拠もないのに」

このセリフはまだ続きます。

主人公はこの後自暴自棄になり、突拍子のない行動にでます。

このセリフも、自分のことを言い当てられた気がして辛かった。

 

でもそのあとの恩師の回想での様々な温かい言葉。同じ施設で育った恵子とのふれあいでまたどんぞこから救い出されます。

 

「自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ」

 

「考えることで、人間はどのようにでもなることができる、……世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、つくりだすことができる」

恩師はそう言って主人公に映画をみることや本を読むことをすすめます。1度自殺を図った主人公は恩師の言葉に救われます。

そして、やがて未決死刑囚の山井と出会います。

恩師に憧れていた主人公は生を諦めた山井を救えるのか。

 

自殺した友人、真下の記憶に苛まれたり、海辺のぼんやりした夢のあやふやな映像に苦しんだり、とにかく主人公のつらい苦しんでいる境遇ばかりの本ですが、読み終わった後のすがすがしい気分はとても気分いいです。

 

暗いくらいトンネルを抜けると、とてもすがすがしい景色……とは言い難いとしても、同じようなきれいなものや汚いものが入り混じった景色があったとしても、見え方が変わっているはずです。

 

「人間と、その人間の命は、別のように思うから」

という素晴らしいセリフがあります。

その通りだと思います。自己を肯定しようと否定しようと、その奥のもっと根源の部分。その人の命だけは確固たるものでぶれ様がないと思いました。

デカルトの「我思う、故に我あり」じゃないけど、これから生きてて、何もかも憂鬱な夜が訪れたとしても、自分の命だけは別なんだから。うまく言えないけど、自分を持って生きていこうと思いました。

 

レッチリのボーカル、アンソニーが親友のヒレルがドラッグ中毒で死んでしまったりいろいろあった時に作ったとんでもなく孤独な曲。

でもどこか明るい未来に思いをはせている様子がこの本と重なりました。


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