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西加奈子という人の書く作品について

どうにかこうにか、西加奈子著「サラバ!」を直木賞受賞作発表までに読み切ることができました。

素晴らしい作品でしたが、その前に俺が感じていた西加奈子って人について。


西加奈子の作品は、人を肯定する

俺が初めて読んだこの人の作品は文庫版「通天閣」でした。 今思えば通天閣は、西加奈子作品の中に置いてはそれほど華やかな作品ではありません。わいわい近所の人や家族とかかわる物語じゃない。

かといって「舞台」のように一人で苦しむ物語でもない。

本当に人との、自分とのかかわり方がこの人の作品の中において中間に位置している作品です。 これを読んだ印象は、「地味だけど、前向きな話だな」ってくらいでした。西加奈子の作品を読んで「地味」だなんて。でもとりたてすごく印象に残ってはいなかった。 次読んだのはどれだっけ。というかなぜ次の本を手に取ったのかもあいまいです。まあそれがこの人の小説が持つ力とも言えるのかもなんて。

 

あっ、とその前に、俺がこの人に興味を持ったきっかけは、神保町の本屋でのイベントで海猫沢めろんと二人で行った対談がきっかけでした。海猫沢めろんを目当てに向かったそのイベントで初めて目の前に現れた西加奈子は、薄化粧の顔でにこにこ無邪気に笑いながら、関西弁で何やら真剣に、時に笑いを交えながら、それでもやっぱり本音を話していました。「生きる」ということについて。

その語り口に魅力を感じた俺は、そうだ。通天閣を手に取ったのです。

そして後々覚えてるのは「舞台」を読んだとき。 俺の通天閣のイメージとは違う、ネガティブで後ろ向きな主人公が自意識と格闘する様はこの間目にした笑顔で話す西加奈子の印象とはかけ離れたものでした。

「こんなのも書くんだ」 そこからさらにはまっていったと思います。エッセイではあっけらかんと酒を飲みながらふざけて、小説では主に自意識に苦しむ主人公を描いて、そして最後この人の物語全体に共通するクライマックスがあります。

それは主人公や登場人物が行う、世界の「肯定」です。

西加奈子作品の主人公は、自意識や家族とのかかわりに苦しんで苦しんで、そして途中、さまざまな冒険や経験を経て、自分の生き方、姿、容姿、周りの人間、家族を肯定します。

みなが一様に成長するのです。

その成長していくさまは読んでいてすごく身につまされるもので、引っ張られて自分も少し人間的に成長したような気がする、そんな小説を書きます。

読んだ後、「ああ、良いんだ」と思う。いつも。 「俺の今のこの状況も、最悪じゃないんだ。ここに生きてるんだ」って。そんな優しい気持ちにしてくれる小説を書いてくれる人だと思ってます。


そして「サラバ!」

そして西加奈子作家10周年の区切りで出てきたのがこの「サラバ!」です。 主人公はちょっとだけ「舞台」の主人公とも似ている、容姿端麗で自意識に苦しみながら周囲に気を使う男。

そして見逃せないのが、この主人公の出自、イランのテヘランで生まれて、カイロ、大阪そだちという設定が、作者の西加奈子とまったく同じであるということ。

つまり西加奈子は、半ば自叙伝としてこの小説を書いているのです!  必然的に、今までの集大成という位置付けになってしまいますよね。

「サラバ!」ではこの主人公の一生を、生まれ落ちた瞬間から37歳までの人生を丁寧に、こと細かに描きます。なので当然長いです。

でも、この尺はこの物語を語る上で絶対必要な長さだったと思う。この間見た「6歳のボクが、大人になるまで」が長い上映時間だったのと少し似ています。

人の一生を追おうと思ったら、そんな生半可な用意では望んではいけないんだと思います。できれば省いたりしてはいけない。だってそこに生きているんだから。

この物語で主人公の人生を一緒に追っていると、当然いろんな苦しみがあります。西加奈子がいつも掲げるテーマ「家族とのかかわり」での苦労や、友人、恋人、仕事での苦しみ。 そのどれも、人間関係にまつわるものです。

いかに人間は一人では生きていけないかがわかります。 人間関係を受け身で流してきた主人公は、年を重ねていくうえで、容姿が崩れてくるなどの要因で今までのようにスムーズに人間関係が築けなくなることに苦しみます。

そこで初めて、いかに今まで受け身に徹して、逃げに徹していたかを思い知るのです。 この問題を解決する手立てとか、姉からのとても重い言葉とか、終盤再びかわすヤコブとの言葉。

その先に待っているのは、すごく、すごく長い時間はかかったけど、最後にたどりつくのはやはり西加奈子流の「肯定」なのでした。

しかも、今回はその「肯定」の手立てをある仕掛けで読者に託す。 この辺りはもうほとんど西加奈子から読者への直接語り掛けるメッセージです。あとがき兼エピローグ兼メッセージです。

そりゃそうだ。こんなん読めば胸が熱くなるっての。

本当にすごい小説でした。 これは間違いなく俺にとって一生大切な思い出となる小説です。 願わくばこの作品が直木賞を受賞してほしいと思ってます。